桜が咲く前に桜が咲く前に

『東京』から10年前に遡った、『東京』から10年前に遡った、

ずっと書きたかった歌です。ずっと書きたかった歌です。

東京の歌が書けたら、東京の歌が書けたら、

次に書こうと思っていた歌。次に書こうと思っていた歌。

生まれ育った東北では、生まれ育った東北では、

4月下旬に桜が咲き始める。4月下旬に桜が咲き始める。

桜が咲く前に
2015年4月29日(水) 1stシングル 発売

きのこ帝国 「桜が咲く前に」

発売日:2015年4月29日(水) 価格(税込) : ¥1,296品番:UPCH-80400収録内容:1.桜が咲く前に2.Donut3.スピカ ※全3曲収録

桜が咲く前に Music Video

「桜が咲く前に」 制作 インタビュー

取材・文/三宅正一(Q2)

桜って苗を植えてから花が咲くまでに10年かかるらしいんですね上京してからこの10年、うまくいかないこともいっぱいあったけど、この10年があったからこそ今の自分があるそう思うと、私の人生も桜のようだなって思ったんです(佐藤千亜妃)

きのこ帝国は、最初から特別なロックバンドだった。きのこ帝国の楽曲には不可侵な美しさとすごみが通底している。彼女たちが作品を編み、リリースする度に、現行の日本ロックシーンにおける聖域とも言える音と歌は確実に研ぎ澄まされ、解放されていった。そのうえで大きなターニングポイントとなったのが、2014年9月にリリースした1stシングル「東京」であり、「東京」を絶対的な軸として不特定多数のリスナーと能動的なコミュニケーションをはかろうとする意志=ポップの光輝に彩られた2ndフルアルバム『フェイクワールドワンダーランド』(同年10月リリース)だった。

「東京」は、全曲の作詞作曲を担う佐藤が初めて自分自身とかけがえのない他者の存在、そして今ここで生きている“この街”を全面肯定した楽曲だった。これまできのこ帝国の活動をサポートしてきたインディーズレーベル、UK.PROJECTからリリースした1stミニアルバム『渦になる』(2012年5月リリース)から、佐藤の歌には、惜別や悔恨、憎悪の影がどこかに帯びていた。それから、佐藤の歌は、きのこ帝国の音楽像は、少しずつ扉を開け、外から射し込む光を取り入れるようになる。当初はシュゲイザーやポストロック、オルタナという文脈で語られることも多かった彼女たちの楽曲は、歌を躍動させるための静謐な音像や轟音の美学を貫きながらも、作品を重ねるごとにジャンルの記号性にとらわれない普遍的なロックソングの求心力を獲得していった。

そして、きのこ帝国は、2015年4月29日、シングル「桜が咲く前に」でEMI Recordsよりメジャーデビューする。すでにアナウンスされているが、「桜が咲く前に」は「東京」のちょうど10年前の記憶と物語を描いた楽曲である。佐藤が地元である岩手県から上京したのが、2005年の春。それはこれから本格的に音楽と生きていこうと決意した上京前夜、青春の終わりだった。

佐藤千亜妃:「それこそ『渦になる』のときは自分の家族や地元の友人の顔が思い浮かばないような曲を作っていて。上京してからあったつらいことばっかり曲にしていたから。曲を聴いたお母さんから電話があって『あんたこんなにつらい思いをして東京で生活してるのね。泣いちゃったわよ』って心配されたりもして(笑)。そりゃそうだよなって思ったんですけど、自分としては地元を捨てるくらいの覚悟で上京したので。でも、だんだん孤独な状態のまま音楽だけを作って生きて死んでいくなんて寂しいと思うようになって、『東京』と『フェイクワールドワンダーランド』でひとりぼっちの音楽を振り切ったんですよね。結局、ひとりぼっちで生きていくほど自分は強くなかったし、それならもう孤独な音楽にこだわらなくていいなと思ったんです」

こうして、上京から10年というタイミングで「桜が咲く前に」が生まれた。

佐藤千亜妃:「春だし、故郷を出たりする人も多いと思う。そういう節目の季節に桜の歌を書きたいと思ったんです。岩手は桜が満開になり花見をするのがだいたいゴールデンウィークくらいなんですね。そのころには東京の桜は散ってるんだけど、ふと『今ごろ岩手は桜が満開なんだろうな』って思ったりするんです。岩手には石割桜という石の割れ目から桜の花が咲く大きな木があって。それは、我慢強い岩手県民の象徴のような存在なんですよね。(東日本大震災)で被災して、みんな大変な思いもしたけど、桜を見て勇気づけられる人も多い。それと、これは『桜が咲く前に』を書いてから聞いた話なんですけど、桜って苗を植えてから花が咲くまでに10年かかるらしいんですね。それが自分が上京してからちょうど10年という背景とリンクして『すごい!』と思った。自分も上京してからこの10年、うまくいかないこともいっぱいあったけど、この10年があったからこそ今の自分がある。そう思うと、私の人生も桜のようだなって思ったんです。だから、この曲は丁寧に書きたいという反面、個人的にはすごく恥ずかしいものであるくらいストレートに書いたほうが、よりリスナーに伝わるんじゃないかと思って」

“あの故郷”に思いを馳せる郷愁を、“この街”で生きている実感とともに綴ったリリックとメロディ。 丁寧かつ過不足ないバンドのアンサンブルが、佐藤が紡いだ桜の歌を優しく、強く咲かせている。

あーちゃん:「佐藤さんから『10年経ったし、故郷のことを歌おうと思う』という話を聞いてからデモを聴かせてもらって。私は佐藤さんがかつて地元でどういうことがあって、どういう思いで上京してきたのかという話も聞いてきたから、『ロンググッドバイ』(2013年12月にリリースした1st E.P.のタイトル曲)と『東京』と『桜が桜く前に』が3部作なんだなと思って。そう思ったら、聴きながら『うわあ!』ってなんとも言えない気持ちになりました。私は東京出身だから佐藤さんの気持ちを完璧には理解できないかもしれないけど、それでも曲から迫ってくる彼女の強い思いは感じるので。アレンジに関しては、ピアノを入れてみたり時間のないなかでいろいろ試したんですけど、結果的に最初にやったシンプルな形に落ち着いて。この曲はそれでいいんだなって思いましたね」

西村“コン”:「ドラムの面では、今回のシングルの3曲のなかでも『桜が咲く前に』がいちばん試行錯誤して。この曲にある佐藤の思いやストーリー性をいかにしっかり表現するか。直感だけでは成立しないプレイを要求される曲だなと思ったし、そこと向き合うことができてよかなったなと思います」

谷口滋昭:「自分とコンちゃんも上京組なんですけど、僕は高校卒業してから上京するまでに過ごした時間を思い出しましたね。卒業旅行に行ってから会ってない友人もいるし、もしかしたら一生会わないのかもと思うときもある。そう考えるとこの曲はすごく感慨深く響いてくるし、佐藤の曲は毎回すごく大切な気持ちを歌ってるから。それを一緒にプレイするという意味では責任感は大きいですよね。でも、それをしっかり受け止めることがバンドメンバーの役割だと思うんです。ライブでアレンジが変わるかもしれないですけど、音源はシンプルなアプローチができてよかったと思います」

カップリングは2曲。M2「Donut」はイントロからフィーチャーされているフィードバックノイズや長尺のアウトロが印象的な、凛としたメロディと高い熱量のディストーションサウンドが融合したラブソング。一方、M3「スピカ」は軽やかなサウンドにどこか「桜が咲く前に」のアナザーストーリーを思わせる歌が乗っている。佐藤自身「『桜が咲く前に』が見送られた側なら、『スピカ』は見送った側の物語として書いたところもあります」と語る1曲だ。ここから、きのこ帝国は新たな季節を過ごしていく。それがそのまま音になり、歌になっていく。彼女たちの不変の本質は、そこにある。

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